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第003-1話 問診

Penulis: 百舌巌
last update Terakhir Diperbarui: 2025-01-07 19:04:07

元の病室。

 どうやら自分が今いる場所はダマスカス(シリアの首都)では無いとディミトリは理解したようだ。

 ビルが立ち並んでいるのが見えていたので、勝手にそう思い込んでいただけだった。

 そして中国でもない。もっと東にある日本という国なのだと知った。

(違いが分からん…… で、どこだ?)

 ディミトリには中国も日本も新聞の記事でしか見たことが無い。なので、地理的なイメージが湧かないらしい。

 だが、場所などはまだまだ些細な事だ。

 彼はもっと深刻な問題を抱えている最中だった。

(なんで、見知らぬ小僧の身体になっているのか……)

 にわかに信じがたい状態にあるのだ。

 目が覚めたら自分が他人になっている。こんな話は聞いたことが無い。

 しかも、困った事に自分は違う人間だと証明しようが無い事だった。

 すっかり取り乱したディミトリは警察署のトイレで大声で騒ぎ出したようだ。

 それを警察官たちはなだめるのに大変だったらしい。

 やがて、興奮のあまり気を失ってしまったディミトリは病院に戻されてしまっていた。

「じゃあ、君が覚えていることを教えてくれるかな?」

 鏑木医師がディミトリに尋ねた。彼は入院した時からの担当医だ。

 警察署での様子を付添の警察官から聞いた医師は心配事が増えたようだった。

 しかし、具体性の無い質問を言われても分からない。

「ナルト……」

「?」

 ディミトリは日本で知っている唯一の単語を口にしていた。

 日本のアニメ好きの同僚が口にしていたものだ。

 彼は忍者に憧れていたので武器の一種なのだろうと推測していた。

「ナルト? ラーメンに入ってるヤツ?」

「え?」

 今度はディミトリが混乱してしまった。

(ラーメンってなんだ?)

 意味不明な単語に戸惑ってしまった。だが、ディミトリの腹が『ぐぅ~』と鳴るので食い物関連かも知れないと考えた。

「ああ、アニメの方のナルトね……」

「!」

 ディミトリの戸惑った表情で、違う方の『ナルト』だと気がついた医師はアニメだと思ったらしい。

 医師もアニメは知っているらしかった。きっと有名なのだろう。

 その様子にディミトリは頷き返した。

「アニメは好きなのかな?」

「どうでしょう…… あまり覚えていません……」

「ふむ……」

 医師はカルテに何かを書き込んで質問を続けた。

「自分の名前は?」

「……」

 まさか『ディ
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     ディミトリは携帯電話を取り出してケリアンに電話を掛けた。『ケリアンさん……』『どうしましたか?』『今、車がドローンに追跡されてます。 貴方の指図じゃないですよね?』 ディミトリは念の為に尋ねてみた。ひょっとしたら護衛用の監視かも知れないと考えたからだ。『私は知らないです……』『そうですか』『はい、灰色狼が貴方の行動を見張る為に飛ばしているのでしょう……』『恐らく……』 裏社会の長いケリアンはドローンの意図を言い当てた。ディミトリも同じ意見だった。『ケリアンさん。 そこは直ぐに引き上げた方が良いですよ』『ああ、私も危険な匂いがする。 そちらも気を付けて……』『はい、僕が居ないので彼らは気兼ねなく銃を使って襲撃するでしょうからね』 ディミトリの話で自分に危険が迫っている事に気が付いたケリアンはそう言って電話を切った。(俺がアオイの救出に向かったのを知っているはず……) ディミトリが居ない隙に乗じて、アオイたちを人質に取ろうとする可能性があるのだ。 ケリアンとの電話が終わった時に、横合いにバイクが並走して来た。中型のバイクで運転手は一人だけだ。 バイクは追い抜くわけでなく、並走して車内をチラチラ見始めた。『お客さんだ……』 ディミトリは呑気に世間話をしている二人に声をかけた。 バイクの行動にピンと来る物があった。ディミトリが居るかどうかの確認であろう。『え?』 そう言うと運転手は自分の右側に顔を向けた。バイクを確認しようとしたのだ。 後部座席のディミトリを確認したバイクの運転手は懐から銃を取り出した。『危ないっ!』 ディミトリは叫ぶのと銃撃は同時だったようだ。 運転手側の窓が砕け散って、運転手の脳やら髪の毛やらがフロントガラスにへばりついた。 それを見ながらディミトリは自分の銃を取り出した。モロモフ号でかっぱらった奴だ。(くそっ! なんてせっかちな連中なんだ!) ディミトリは咄嗟に後部ドアの下側に屈み、自分の銃で窓越しにバイクを銃撃した。窓ガラスが車内に飛び散る。 当たるかどうかでは無く、牽制の為に銃弾をバラ撒いたのだ。『運転を!』 ディミトリは叫ぶが助手席の男は顔を伏せたままだ。銃弾が自分目指して放たれているので仕方が無い所だ。 片手でハンドルを握っているが、前を見てるわけではない。このままでは事故っ

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    『じゃあ、今の灰色狼を仕切っているのは誰ですか?』『張栄佑(ジャン・ロンヨウ)だと思う』『どういう人物ですか?』『中国の東北地方を根城にしている黒社会のボスだ。 実際は公安部の工作員だと睨んでいるがね』『中々複雑なんですね』『俺はジャンに話を持ちかけたのがシンだと睨んでいる』『シンの画像は有りますか?』『こんなのしか無いが……』 そう言って携帯電話の画像を見せて来た。一見すると優しそうなおじさん風だ。隠れ蓑にするには丁度良さげな風貌だった。『その場所に下見に行きたいので連れて行って貰えませんか?』 今回は荒事になるのは目に見えている。まず、敵が何人くらいいるのか位は知っておきたい。 暫く、地図を睨みつけた後でケリアンに頼み事をした。自転車で行くには距離が有るからだ。 こういう時には子供の身体である事が恨めしく思うのだった。『ああ、良いだろう。 部下に送らせよう……』 ケリアンが部下を二人付けてくれた。何れも軍隊出身なので当てになると言っていた。 車は普通の乗用車だ。目立たないようにと配慮してくれたらしい。『英語は?』『大丈夫ですよ。 坊っちゃん』 二人共英語は大丈夫だと聞いて安心した。自分の拙い中国語では心許ないからだ。 道中、車の中で二人に聞くと、灰色狼のアジトを見に行くだけとしか聞いてないようだ。『あの、質問しても良いかな?』『ああ、良いよ……』 運転席の男が質問してきた。『あの物騒な連中と知り合いなんですか?』 彼らは香港から日本に派遣されているらしかった。灰色狼の荒っぽい仕事のやり方は彼らも知っているようだ。『どちらかと言うと、向こうの連中の片思いさ……』 ディミトリはそれだけしか言わなかった。偵察が目的なので彼らに詳しく説明する気が無かったのだ。 ボスに少年をアジトが見える所まで連れて行って来いと言われ不思議に思っているらしかった。『あの連中は直ぐに青龍刀を出して振り回して来る言うからな……』『格好はいっちょ前だけど、強く無いって話を聞いたぞ?』『でも、シェンたちがやられちまったんだろ?』『不意を突かれたんだろ……』『普通は命までは取らないもんだよ。 話し合いの余地が無くなっちまうからな』『日本には温い組織しか無いから加減が分からないんだろうよ』 車の中で男たちは気楽にお喋りをしていた。

  • クラックコア   第070-1話 海に近い所

    学校。 灰色狼のアジトを特定する作業はケリアンにお願いした。複数のアジトがあるとの事なので、彼らのリーダーが居る場所を絞り込んでもらうのだ。 今の所はシンイェンの恩人と言うことも有り、表面上は利害関係が無いのが幸いだ。 もっとも、金に目が眩まない人間などいないのはディミトリも承知している。(使える者は何でも使うさ……) 平日の昼間という事も有り、中学生の振りをしたディミトリは学校に来ていた。 連夜のハードな日々に比べると、何とも気の抜けた平和な空間だ。「おい、若森…… せめて連絡ぐらいしろよ」 休み時間に大串が話し掛けて来た。どうやら祖母が電話連絡をしたらしい。 何も知らない彼は返事にかなり困ったようだった。「宿題が間に合わないから手伝って貰ったと言っておいたからな」「ああ、済まない」「お前は何をやってるんだよ」「怖い顔したおっさんたちと鬼ごっこさ」 そう言って、ディミトリはニヤリと笑った。鬼ごっこの意味に気が付いた大串は肩を竦めて離れて行った。 彼もディミトリが厄介な事に首を突っ込んでいるのは知っている。関わり合いになるのが嫌なのだろう。 するとケリアンから場所が判明したとのメールが来たのに気が付いた。(流石に仕事が早いね……) ケリアンからのメールを見ようとして別のメールにも気付いた。これは探偵会社からだった。 見張っている車の事を調査してもらっていたのだ。 ディミトリが大人のなりをしていれば、車の番号から所有者を割り出すのは簡単な事だ。 しかし、見てくれは中学生なので、まともに取り合って貰えない。 そこで、インターネットを通じて探偵会社に依頼しておいた。金が掛かるが仕方が無い。 メールによるとディミトリを見張っている黒い不審車は、『江南警備保障』という警備会社の所有する車だった。(コイツは間違いなく公安警察の覆面会社だろうな……) 政府機関が非合法な活動を誤魔化すのに、民間会社を装うのは良く使われる手だ。 非合法活動が専門のチャイカからの受け売りだが間違いないだろう。 一方、大串を見張っている車は群鹿警察の所有する車であった。こっちは東京都内の警察署だ。 ディミトリは行ったことも無い場所だった。(所轄警察? なんで所轄の違う警察が協力しているんだ?) ディミトリが居るのは東京都下の府前市だ。 不思

  • クラックコア   第069-2話 物騒な中学生

    『ところでクラックコアって手術を知っていますか?』『ああ、脳の移植手術だと噂に聞いている』 やはりケリアンは知っていたようだ。 彼の相手を値踏みするような眼付は、ディミトリが本当に手術を受けているのかを知りたがっているのだろう。『だが、詳しいやり方は知らない』 どういった手術なのか質問しようとしたら先に言われてしまった。『ロシアの金持ちが首から上を挿げ替える手術をしたのを知っているか?』『いえ』『実際に行われて失敗したそうだ』『え』『彼はそこで死んだ…… と、伝えられてる……』 さすがロシアだ。危険な領域であろうと躊躇なく踏み込んでいく。『ところが脳の移植に成功して生きていると噂が流れたんだよ』 実際に手術をしたのは中国人の外科医チームであった。そのチームの一人から噂が広がっていったらしいのだ。『君も似たような事をされている可能性が高いね』 やはり、ケリアンは自分のことを知っていたようだ。つまり、麻薬組織の金を横取りした事も知っているのだろう。 ディミトリは思わず自分の頭を撫でた。『貴方も詳しいですね』『ああ、日本で成功しているらしいと噂が流れたからね』『それが自分だと?』『そうだ』 ディミトリは首を振ってため息を付いて見せた。 彼の方針として誰にも、自分はディミトリであるとは認めないことにしていた。どうせ、確認のしようが無いから平気だ。『中国の金持ち連中から、自分も手術が受けられないかと問い合わせが来ているのさ……』『へぇ…… 長生きのために?』『ああ、ロシアだろうと中国だろうと、金持ちというのは若い肉体を手に入れたがるものなんだよ』 そう言って笑った。人間の欲望にはキリが無いものだ。次々と欲しい物を考えつく。『出来れば不老不死も手に入れたいと?』『そうだろうな…… 私は命に限りがあるから尊いと思うのだがね……』 ケリアンは、そう言うと手元の茶を飲んだ。これは本音であろう。 ディミトリも賛成だ。命ある限りナイスボディのお姉ちゃんと仲良くしたいと思っている。『ところで、頼みがあるのですが……』『何でも言ってくれ』『娘さんを拉致したグループと自分は揉めています』『うむ、連中は君のことばかり質問していたそうだ』『彼らとの問題を解決する必要があるのです』『ほぉ』『その為には彼らのアジトを突止める必

  • クラックコア   第069-1話 噂の出処

    アオイのマンション。 翌日、ディミトリは学校をサボってしまった。シンイェンの父親に会う必要があるからだ。 チャイカの方が片付いたので、残りは中華系の組織だけだ。外国に出かける前に片付ける必要がある。(事務所の場所を聞き出して見張りを頼めないだろうか……) アオイのマンションに昼頃に行くと、シンイェンの父親は既に到着していた。飛行機をチャーターしてやって来たのだそうだ。 そして、ディミトリを見かけると深々とお辞儀をしてきた。ディミトリも釣られてお辞儀をした。『こんにちわ。 林克良(リン・ケリアン)と言います……』『娘を窮地から救ってくれて有難う!』『貴方は大変な恩人だ。 私に出来ることがあれば何でも言ってくれ』 父親はディミトリの顔を見るなり早口の中国語で話し始めた。 その様子にタジタジになってしまったディミトリ。『よろしく タダヤス』 自分を指差しながら、辿々しい中国語で名乗るのが精一杯だったようだ。 シンイェンはニコニコしながら両方の顔を見比べていた。『英語の方が良いかね?』『ええ、そちらの方が具合が良いのでお願いします』 その様子を見たケリアンは英語で話し掛けてきた。ディミトリとしても英語の方が有り難かった。 アオイ姉妹はディミトリが流暢な英語を話すのにちょっとビックリしていた。お互いに顔を見合わせている。「じゃあ、私達は食事の用意するわね……」 もっとも、彼に驚かされるのは初めてでは無い。なので、他の用事をすることにしたようだ。「不要な外出は避けたいのでお願いします」『私も手伝う!』 料理をすると言うとシンイェンは自分も手伝うと言い出した。 三人は台所へと向かっていった。『彼女らには知られたく無いのだろう?』『はい、詳しくは知られたくないですね……』『そうだな…… 私なら詳しく知った人間は始末してしまう』『……』 やはり同じ種類の人間なのだなとディミトリは思った。 リスクは可能な限り減らすという考えが無いと、あの国では生き残っていけないのだろう。『貴方の仕事は非合法なものですか?』『それは見方によるよ。 私は日本から手に入れた中古品を売っているだけさ』 ケリアンは肩を竦めて返事した。『いや、仕事内容を非難する気は無いですよ』 もっとも、ディミトリは非合法であるかどうかは気にしていない。彼の立

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